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インターネットは世界的な公共のリソースです

[ この記事は、米国 The Mozilla Blog に掲載された Mozilla Foundation のエグゼクティブディレクター Mark Surman によるブログ記事 "The Internet is a Global Public Resource" の抄訳です ]


私が Mozilla に目を向けるきっかけとなったものの 1 つが、Mozilla のマニフェストにある次の言葉です。

「インターネットは世界的な公共のリソースであり、オープンかつアクセス可能なものであり続けなければなりません」

私はこの言葉に目を留め、考えました。そしてその意味を理解したとき、決心したのです。

インターネットは、水と同じように私たちが全員で共有し頼るべきものであるという考え方に全力で貢献しよう。この大切なリソースを支え、守るために全力を尽くそう。オープンなインターネットの重要性を広く知ってもらうためにできる限りのことをしよう。そう心に決めました。

私たちが「インターネットを守る」と言うとき、それは Wi-Fi を普及させて地下鉄の中で「キャンディクラッシュ」のゲームができるようにする、ということではありません。インターネットは、ちょうどボトルに入った水のように、私たちがいてもいなくても、おそらく存在しているのです。Mozilla は、「インターネット」を広大で健全な海のようなものとして捉えています。

インターネットの健全性は、私たちの社会に大きな影響を及ぼす重要な課題であると Mozilla は考えています。オープンなインターネット、つまり、通信のブロックや速度制限、有料の優先順位づけが一切ないインターネット上なら、一人ひとりが思い描くものを何でも作り上げたり開発したりできます。多額のコストや誰かの許可も要りません。それは、人々が学んだり楽しんだり、新しい機会を見つけたりできる安全な場所になります。そうしたインターネットを実現することは可能なはずです。なぜなら、インターネットはオープンな公共のリソースであり、私たちみんなのものだからです。


インターネットを重要な課題として受け止めてもらう

インターネットの健全性は優先度の高い問題だと、誰もが考えているわけではありません。ほとんどの人は、インターネットとはほかのモノがつながる「モノ」であると考えています。その人たちは、インターネット上で通信速度の制限や検閲、監視が広がりつつあることに気づいていません。インターネットが世界中に普及するにつれて、インターネットによって得られるはずのメリットがどれほど不公平になっているかということにも気づいていません。Mozilla は、インターネットの健全性という問題を環境問題と同じように重要な課題として考えてもらえるようにすることを目指しています。

ここで、環境問題に関する活動との共通点について、少し考えてみましょう。1950 年代に、環境が破壊されやすいことを訴えていたのは、ごくわずかなアウトドア派の人々や科学者だけでした。ほとんどの人々は、きれいな空気やきれいな水はあって当たり前だと考えていたのです。しかし現在では、リサイクルや節電が必要であることを大半の人たちが知っています。政府は公害を引き起こす組織を監視し、規制を行っています。企業も、自然食品や電気自動車など、環境に配慮したさまざまな製品を提供しています。

しかし、こうした変化は自然に生じたわけではありません。政府、企業、一般大衆が環境の健全性を重要な課題として受け止めるようになるまでには、環境問題の活動家たちが何十年にもわたって熱心に活動する必要がありました。この活動が実を結び、環境問題は重要な課題となり、私たち誰もが健全な環境を維持する方法を模索するようになっています。

一方、インターネットの健全性という問題に目を向けると、私たちは 1950 年代に逆戻りしたかのようです。これまで何十年ものあいだ、Mozilla や EFF、スノーデン氏、Access、ACLU など、多くの組織や人々がインターネットの脆弱な状態について発言してきました。オープンなインターネットがなぜ重要で、インターネットにとってどのような脅威があるのかということについて、私たちは誰もが明確に話すことができます。それでもなお、インターネットの健全性が重要な課題として受け止められているというには、ほど遠い状態です。

Mozilla はぜひともこうした状況を変える必要があると考え、それを Mozilla の明確な目標の 1 つとして掲げることにしました。

Mark Surman のブログ記事「Mozilla Foundation 2020 Strategy」を参照してください。


議論を始めよう: デジタルデバイド

世界銀行が先ごろ公開した「2016 World Development Report」を見ると、Mozilla が踏み出そうとしているこの方向性は正しいことが分かります。世界銀行の過去のレポートでは「仕事」といったことが主要な課題として取り上げられていましたが、今年のレポートでは、「デジタルデバイド」とオープンなインターネットの問題が正面から取り上げられています。

このレポートでは、インターネットがもたらす包容性、効率性、革新性といった恩恵がすべての人に公平にいきわたっているわけではない、と報告しています。そして、私たちがインターネットを「アクセス可能で、低コストで、オープンで安全」な状態に維持しなければ、そうした不公平な状態が続くとしています。インターネットに低コストでアクセスできるようにすることは、喫緊の課題です。しかし、

「さらに難しいのは、インターネットをオープンで安全な状態に維持することです。コンテンツフィルタリングや検閲を行うことで経済的なコストが生じ、オンライン上のプライバシーやサイバー犯罪に対する懸念が生じると、技術を社会で有効活用することが難しくなります。ユーザがオンラインでより便利になるためには、プライバシーを犠牲にしなければならないのでしょうか?コンテンツ制限が正当であると言えるのはどのような場合であり、オンライン上での発言の自由とはどのようなものと考えるべきでしょうか?個人情報のプライバシーを保護しつつ、収集したデータを公共の利益のために活用するにはどうすればよいのでしょうか?さらに、オープンで誰でも安全にアクセスできるグローバルなインターネットを維持するためには、どのような管理モデルが最適なのでしょうか?こうした疑問に答えることは簡単ではありません。しかし、世界中で活発に議論するだけの価値があります」

--「World Development Report 2016: Main Messages」、3 ページ

ここに述べられているような活発な議論が必要です。その議論によって、オープンなインターネットという問題が真剣に受け止められ、具体的に取り上げられるようになります。政府、企業のリーダーたち、メディアがこの問題に目を向けるようになるのです。こうした議論は不可欠です。Mozilla はこの議論に参加し、盛り上げていこうと計画しています。


話し合いを広める

もちろん、この話し合いは「World Development Report」を読んだ人たちだけではなく、より幅広い人々のあいだに広めていく必要があると Mozilla は考えています。オープンなインターネットを重要な課題として受け止めてもらうためには、インターネットを利用するすべての人々に議論に参加してもらう必要があります。

そのための取り組みとして、Mozilla は数々の活動を計画しています。例えば、世界銀行のような組織とのコラボレーションや、オープンなインターネットに関する活動でのさまざまな協力体制などです。また、a.) 「公共のリソースとしてのインターネット」というメッセージをシンプルに伝え、b.) それが議論にどのような影響を及ぼすかを把握する、という活動の中で、数々の企画も試みます。

その最初の企画が、広告キャンペーンです。この広告では、「食料。水。住まい。インターネット。」のように、すでに人間にとって不可欠と見なされているいくつかのものと同列にインターネットを並べます。インターネットをこのように捉える人はほとんどいません。しかし、このように考えてみようと提案したらどうなるかを知りたいと Mozilla は考えています。

この屋外広告キャンペーンは、今週、サンフランシスコ、ワシントン、ニューヨークで開始されます。Mozilla のソーシャルプラットフォームを通じて、別バージョンも掲出する予定です。私たちは人々の反応を見守り、この広告をきっかけとしてどのようなことが起きるかを見ていきます。また、Mozilla のソーシャルチャネル (FacebookTwitter) でも会話への参加を呼びかけます。

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活動を盛り上げる

もちろん、屋外広告を掲げたからといって、何か動きが生じるわけではありません。Mozilla はそうなることはまったく考えていません。そうではなく、新しいことを試してみて、議論することが重要だと考えているのです。私たちのメッセージは人々の心に届いて共感を呼ぶかもしれないし、反感を買うかもしれません。しかし Mozilla は、インターネットの健全性や、インターネットは守らなければならないグローバルなリソースだという考え方について、話し合いの口火を切ることを目指します。

大切なのは、この広告が多くの試みのうちの 1 つだということです。

Mozilla は、オープンなインターネットに関する活動を盛り上げ、この問題が重要なものとして受け止められるようにする取り組みを進めています。例えば、EFF と協力して簡単な暗号化技術の開発を進めたり (Let's Encrypt)、New York Times や Washington Post と協力して、オンラインでの話し合いをよりオープンにして幅広い人たちに広げようと試みたり (Coral Project) しています。また、ACLU、Amnesty International、Freedom of the Press Foundation などの組織に Mozilla の人材を派遣し、それらの組織と協力してオープンなインターネットに関するキャンペーン (Open Web Fellows Program) にも取り組んでいます。これはすべて、さまざまな領域で議論を活性化するための活動です。

Mozilla の屋外広告について、皆さんのご意見をお寄せください。

  • インターネットが重要な課題として受け止められる時代になっているでしょうか?
  • インターネットはあなたにとって大切ですか?
  • インターネットは、人間にとって不可欠と考えられているものと同じくらい重要ですか?

答えが「イエス」であることを期待しますが、どのような結果であれ、私は皆さんのご意見から得られる教訓を学びたいと思っています。重要な課題がどれもそうであるように、健全でオープンなインターネットを維持することも、自然にできるわけではありません。そして、自然にそうなるのを待つ、という選択肢はありません。

私たちは、それを実現するために活動することが必要です。皆さんの力が必要なのです。

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